「家族会議」の開き方・進め方

超高齢社会を迎えた日本において、「長寿リスク」という言葉があります。 相続発生前に長い老後生活があり、4人に一人が認知症になる今日、老親が自分自身で財産を消費や処分することが難しい事態も十分に想定される中で、老親が今後どのように暮らしていくのか、それを誰がどう支えていくのか、そのための財政的基盤はあるのか、などについての備えこそ、緊急の課題と言えます。

つまり、老後生活の先に相続・資産承継が待っているのであって、遺言を作れば、老親も家族も安心できる時代ではないです。 そこには、支え手となる家族を交えての備えが欠かせなくなっており、その備えの第一歩となるプロセスこそが「家族会議」なのです。

筆者はこれまで数多くの家族会議に同席してきました。だからこそわかる家族会議の必要性やその進め方等についてご紹介します。

 

1.なぜ家族会議が必要なのか?

・家族会議の意義  

これから先自活が難しくなった際の生活・介護方針や将来の資産承継に対する考えなど、高齢の親が抱いている将来への希望や“想い”(そこには、ご先祖から脈々と繋いできた一族の誇りや伝統、一代で築き上げた資産や事業、家族への並々ならぬ愛情があるでしょう) を自分の言葉で伝えることの意味・意義は、他に代えがたい影響力・効果があると考えます。

家族会議を開き老親自らの希望や‶想い″を直接伝えることにより、老親の介護方針、資産を承継する家族の取るべき方向性・指針(筆者はこれを「大義」と呼んでいます)を明確にし、家族全員で共有することができますので、家族間のトラブル・主導権争い、遺産相続をめぐる紛争を未然に防ぐ効果が見込めます。

老親が元気なうちに希望・‶想い″を伝えないまま、判断能力を喪失したり死亡したりすると、もはや複数の子が勝手に「大義」や権利をかざし紛糾することにもなりかねません。  

また、遺言書の中で〝想い″を綴られる方も多いですが、やはり遺される家族の心への響き方が本人の口から直接言われた言葉とは違いますし、そもそも遺言では生前中の介護方針をめぐる紛争予防には役立ちません。  

家族会議のもう一つの意義は、家族全体での現状把握・情報共有にあります。

親がどのくらいの資産を持ち、毎月の年金や賃料収入はどのくらいか等、老親が敢えて家族全員に情報を開示・共有することにより、将来の争族の火種を解消し、正確な現状把握とそれに基づく対策の要否を的確に検討することができます。

 

2.家族会議の開き方

・誰が声をかけるか  

親側から子全員に声をかけることが理想です。

もし子側が親側に家族会議の提案をする場合は、親の財産目当ての話し合いではないこと、この家族会議は親自身にとって大変有意義であることをきちんと認識してもらう必要性があります。  

これまで数多くのお客様のご相談を受け、また家族会議にも同席させて頂いている中で、親世代あるいは子世代のどちらかが老親の今後について話し合いを持つことの意義・必要性を感じていないケースもあります。

このようなケースでは、家族会議に同席する専門家からの的確な情報提供・提案を生かすことも効果的です。

 

・会議開催のタイミング  

親が元気なうち、まだ早すぎると思うくらいに招集をかけ、親の介護や相続のことなど子がまだ現実問題として考えたこともない議題を親から持ち出すことは非常に大きな意味があります。  

親が若ければ若いなりの資産・負債と〝想い″があるはずですから、60代は60代の、70代は70代の、80代は80代の家族会議の議題を論ずるべきです。

例えば、週末やお盆、年末年始、ゴールデンウィークなど家族・親族が一堂に会する際に、僅かな時間でも、親のその時点での〝想い″を伝えることから始めて頂きたいです。

そして、家族会議は一度開催して終わりではなく、その後は定期的な開催をし、親の近況と〝想い″を伝え続けるのが理想的です。

 

・家族会議のメンバー  

老親・推定相続人(子)、場合によっては嫁や婿、孫も同席することもあります。

ただし、嫁や婿、孫は直接親からの相続権を持ちませんので、むやみに権利を主張するような場合は、参加を遠慮してもらうことも良策です。地方や海外に居住する等参加が難しい場合は、テレビ電話で家族会議をしたり、後日家族会議の備忘録をシェアすることも大切です。

 

・何から話を切り出すか  

家族会議では、親側から話を切り出したいです。

定年後の老親の人生は長く、その長い老後の先に相続が待っているのであって(もちろん親の急死にも対応できる備えは必要ですが)、遺産相続の議題から始めることは、お勧めできません。

これからの親の生活全般に関する議題、具体的には、もし介護状態になったら在宅介護を希望するのか施設入所か、そのための予算は潤沢かなどの話から始めてみるのはお勧めです。

 

・話し合う内容  

家族会議で議題にする内容は、親の老後生活とそのサポート体制、保有資産・収支状況、遺産相続の仕方、相続税及び相続税対策のこと、墓守のこと・・・など多岐にわたります。

もちろん、親側の一方的な希望の表明にとどまらず、親を支え、親の希望を叶える立場となる子の意見・希望もきちんと共有すべきです。

 

・家族会議の注意点  

親側・子側の希望や〝想い″を共有しただけで終わってしまっては、家族会議の意義が半減してしまいます。

その情報共有を踏まえ、次の2つの視点から家族内で議論を深め、方向性を一致させて頂くのが理想です。  

一つ目は、「親の老後生活と相続後の資産承継に関する希望・〝想い”を実現するために今から何をすべきか」といういわゆる前向き・プラスな観点からの議論です。  

もう一つは、「このまま何の備えもしなければ、どんな困りごとや問題が起き得るか」というリスク管理・マイナスの観点からの議論です。  

この2つの観点から議論を重ねたいのですが、一般的には、法律や税務に詳しくない家族だけで話し合いの時間を設けても、議論は深い森に迷い込んでしまい疑問が解消されない可能性が高いため、早い段階で法律や税務の専門家を交えて会議を進めたいものです。

専門家を交えずに中途半端な知識をもとに方針を決める家族もいますが、せっかく家族会議を開いたのに間違った方向に突き進むことになっては取り返しがつかなくなります。  

なお、専門家といっても、弁護士なら税理士なら誰でも大丈夫というものではなく、特に弁護士は、誰からの依頼に基づく業務かという観点から話し合いに臨むため、公平性・納得感のある話し合いができなくなるリスクもあります。

また専門家からの価値観を上から押し付けるような高圧的な専門家も少なくありません。

望ましいのは、法律・税務の実務に長けながらも、大局的・俯瞰的・常識的に家族全体を見まわし、親の〝想い″を根底に、家族の希望の最大公約数を探る立ち位置を持つ専門家に同席をしてもらうことです。

さらに話し合いを円滑に進めるための進行役まで担ってくれる専門家であればより理想的です。

 

・筆者が同席した中で嬉しかった家族会議とは  

それぞれに家庭を持ち、滅多に顔を合わせることがなくなった親子・兄弟間では、会話もぎこちなく、笑顔も少ない家族会議でも、回数を重ねるたびに場の雰囲気が和んでくるのが肌で感じられると、大変嬉しく感じ、やりがいがあります。  

家族会議による検討の結果、家族信託や遺言、任意後見、生前贈与等の施策を家族で取り組むケースが多いですが、極論を言えば、この家族会議のプロセスをさえ踏んでいれば、万全の施策を講じなくても、安心の老後と円満円滑な資産承継については半分以上クリアしたと言ってもいいと考えます。

 

最後に読者の皆さんにお伝えしたいことがあります。 既に親が判断能力を喪失している、亡くなっている、兄弟仲が絶縁状態になっている等で家族会議が開くことが出来ない家族を沢山見てきました。

家族会議が開けるということは、実は大変有難く幸せなことです。 是非とも家族会議が開けるうちに、老親や子、孫に声をかけて会食を兼ねた家族会議をしてみてはいかがでしょうか?

 

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