信託活用事例C-2:子のいない資産家夫婦が死亡の順番に関係なく自分の親族に財産を遺したいケース

子供のいない夫婦であるX(68)とY(60)は、共に医者でそれぞれが1億円近い金融資産を築き保有しています。
Xは、もし自分が先に死んだら一旦妻Yに相続をさせたいが、妻Yも亡くなった後は、元々の自分の遺産分(1億円程度)は、自分の甥Aと姪Bに残してあげたいと考えています。

また、妻Yも同様のことを考えていて、もし自分が夫より先に死んだら一旦夫Xに遺産を相続させたいが、夫も亡くなった後は、元々の自分の遺産は、自分の甥Cと姪Dに残してあげたいと考えています。
『自分が死んだらすべて配偶者に相続させる』旨の遺言を双方が作るだけでは、Xと妻Yのどちらが先に亡くなるかで、どちら側の親族が莫大な資産を受け取るかが左右されるという不安定な状況になってしまいます。
なお、親族関係は非常に良好で、ABCDは相互に交流もあり、XとYの将来の介護についてもABCDが協力してサポートする旨の話合いはできています。

信託活用事例10:子のいない資産家夫婦が死亡の順番に関係なく自分の親族に財産を遺したいケース

解決策

Xは、遺言において信託を設定します。
その内容は、自分が妻Yより先に死んだ場合、全財産を信託財産として設定し、甥Cを受託者にして財産を託します。受益者を妻Yにし、Yの生存中は甥Cが信託財産から必要に応じた財産給付を行い、妻Yの生活・介護のサポート及び財産管理全般を担うこととします。そして、甥Cがきちんと莫大な遺産の管理をしているかを監督する立場として、司法書士Zを信託監督人に設定します。妻Yの死亡により信託が終了するように定め、信託の残余財産の帰属先を甥A及び姪Bに指定します。
こうすることで、Xが医師として築いた財産は、X側の親族に承継することができます。

また妻Yも、遺言書において、同様の信託を設定します。
その内容は、自分がXより先に死んだ場合、全財産を信託財産として設定し、甥Aを受託者にして財産を託します。受益者を夫Xにし、Xの生存中は甥Aが信託財産から必要に応じた財産給付を行い、Xの生活・介護のサポート及び財産管理全般を担うこととします。そして、甥Aがきちんと莫大な遺産の管理をしているかを監督する立場として、司法書士Zを信託監督人に設定します。夫Xの死亡により信託が終了するように定め、信託の残余財産の帰属先を甥C及び姪Dに指定します。

ポイント

Xが妻Yより先に亡くなった場合、通常の遺言書による相続では、Xの遺産がすべて妻Yに行った時点でAとBに相続権がなくなりますので、妻Yが遺言書で甥Aと姪Bに財産を遺贈する旨を残していなければ、甥Aと姪Bは一切の財産を受け取れません。その反対のことが、妻Yの遺産についても言えます。

つまり、信託のスキームを構築しない場合、Xと妻Yのどちらが長生きしたかで、夫婦が最終的に残した遺産の受取人が全く違う事態になってしまいます。そこで、上記のようにXと妻Yがそれぞれ自分の遺産について、相互に遺言信託を設定することで、円満な関係である双方の親族にとって、公平な遺産の承継が可能になります。

もし妻Yが将来的に認知症等で判断能力が低下した場合には、成年後見制度を利用し、姪Dが成年後見人に就任します。もともとの妻Y固有の財産については後見人Dが主体となって管理をし、信託財産であるXの遺産については、受託者甥Cが管理をする形になりますので、実質的に甥Cと姪Dが協力して妻Yの財産管理を担うことになります。

なお、X及び妻Yの遺言の中で、遺産を調査した上負債を清算し、残った遺産を信託財産として受託者に引き渡すまでの役割は、遺言執行者が担うことになりますので、その部分は信頼できる司法書士Zを遺言執行者に定めるとよいでしょう。

もしXが亡くなった時点で、既に妻Yが死亡していた場合は、特に信託を設定する必要がなく、通常の相続として元々のXの財産分(1億円程度)は、自分の親族である甥Aと姪Bに相続させればいいことになります。

通常の遺言との相違点

Xが、『自分が死んだら、すべて妻Yに相続させる。もし、妻Yが既に亡くなっていたら、Xが築いた財産は甥Aと姪Bに相続させ、妻Yから相続した遺産については甥Cと姪Dに遺贈する』という旨の遺言書を、妻Yが、『自分が死んだら、すべてXに相続させる。もし、Xが既に亡くなっていたら、妻Yが築いた財産は甥Cと姪Dに相続させ、夫Xから相続した遺産については甥Aと姪Bに遺贈する』という旨の遺言書を、それぞれ遺すことで、実質的に上記信託スキームと同様のことが実現できるように思えます。
しかし、現実的にはXと妻Yの財産の選別は非常に困難ですし、妻Yが一人残された後にどのような財産の使い方をするか(たとえば、夫Xの遺産から先に消費することもあり得る)や妻Yが後日遺言書を書き換えて甥Aと姪Bに遺贈することを取り消してしまうこともあり得ます。
従いまして、将来的に遺言内容の履行(遺言時に思い描いた資産承継の形)を確実なものにするという意味において、この信託の手法は安心確実と言えます。

信託の活用事例

A.生前の財産管理

B.不動産の共有トラブルを回避

C.資産承継における“想い”を実現

D.争族トラブル防止

E.事業承継

F.福祉型信託