【事例12】親なき後に障がいのある子を兄弟で支えるケース

X(73)は、妻を亡くし、現在は統合失調症を患い自活する能力のない長女Bと二人で暮らしています。長男Aは結婚をしてXの家の近くに4人家族で住んでいます。二女Cは、外国人と結婚し、海外に永住しています。
Xは、自分の財産(自宅不動産や預貯金等)があるので長女Bとの二人分の生活資金の不安はありませんが、自分が衰えた際や自分亡き後の長女Bの生活が心配でなりません。
いざという時には、近くに住む長男A家族が長女Bの面倒をみてくれることになっていますが、長男Aに過度な負担がかかることを気にかけています。
Xは、元気でいる限り自分で長女Bとの生活を維持していきたいと考えていますが、もし自分が死んだら、長女Bの生活保障ために多くの財産を遺してあげたいと望んでいます。
また、長女Bが亡くなった後は、面倒をみてくれた長男A家族に残った財産が行くことを望んでいます。



≪解決策≫
Xは、今のうちから長女Bのために、Xと司法書士Wの二人を成年後見人とする法定後見人選任申立てをします。
次に、Xは、公正証書で遺言を作成します。
その中で、長男Aと二女Cには遺留分を抵触しない範囲で金融資産を中心に相続させる旨を記載し、それ以外の自宅不動産を含む財産については、信託財産とする信託の設定の記載をします。信託の内容は、信託受託者を長男A、受益者を長女Bとし、長男Aは、信託財産を長女Bのために管理し必要に応じて財産給付するように定めます(長女Bは「信託受益権」として遺産を取得します)。
長女Bが死亡した時点で信託を終了させ、残余財産は長男A家族に帰属させます。
なお、遺言執行者は、司法書士Wを指定しておきます。

≪ポイント≫
Xは、予め長女Bに信頼できる第三者を後見人につけておくことで、長男Aの負担を軽減しつつ、Xの急病や急死という不測の事態にも困らないように長女を支える体制を準備しておくことができます。
長女Bが自ら信頼できる第三者と任意後見契約を締結できれば、それも選択肢になりますが、本件は長女Bに契約締結能力がありませんので、任意後見制度の利用ができません。そこで、予めXが信頼できる司法書士Wを見つけて長女Bのために法定後見人を就けておくことにしました。

Xが元気なうちは、司法書士Wは長女Bの財産と生活の現状を把握し、家庭裁判所への定期的な報告についてサポートするに留め(包括的な財産管理業務を司法書士Wが、身上監護及び細かな財産管理はXが担う形)、Xが対応できない事態になった場合に、すぐに司法書士Wが後見人として動けるようにしておきます。

Xが死亡した際には、遺言執行者として司法書士Wが遺産をとりまとめ、相続人である長男Aと二女Cへの相続財産の引渡しを行います。また、信託財産となる遺産についても、長女Bに代わって財産を管理する長男A(受託者)に引渡しをします。
司法書士Wは、長男Aがきちんと長女Bのために財産管理を行っているかを後見人としてチェックすることが可能ですので、安心です。

なお、長女Bへ相続させる財産を他の兄弟と同様所有権の財産にしなかったのは、一旦長女Bが所有権として財産を受け取ってしまうと、長女Bが遺言を書く能力がないため、長女B亡き後に残されたXから引き継いだ遺産は、法定相続人である長男Aと二女Cとの遺産分割協議によらざるを得なくなります。
こうなると、海外に永住する二女と遺産分割するのは非常に手間がかかり、また長男Aの長女Bへの貢献度を踏まえ、長男Aがより多くの遺産を受取ることを希望しても、二女Cが平等を主張すれば、協議は難航しかねません。
さらに、長男Aだけでなく、親身に尽くしてくれた長男Aの妻や子供にも財産を渡したくても、長女Bの法定相続人でないため、長女Bが自分の意思で遺言を作る等をしない限りあげることはできません。
従って、Xが長女Bへ遺したい財産について、≪長女B≫⇒≪長男A及びその家族≫という流れを確実なものにするには、所有権ではなく「信託受益権」とすることが必要になります。
このように、長女Bの遺産がすべて長男側に行ったとしても、二女Cに遺留分はありませんので、確定的な相続が実現できます。

また、Xの遺言において、長女Bの面倒をみてくれる予定の長男Aに予め長女Bの相続分も渡し、長男Aにすべてを託すという選択肢もあります。しかし、長男Aがもらった遺産をすべて自分のために消費してしまって、遺産をあまりもらえなかった長女Bは生活苦に陥るという可能性は否定できません。現実にそういったケースを耳にしたこともあります。
あらゆる可能性を踏まえ、リスクが最小限となる仕組みの構築が、安心できる「親なき後問題」の一番の解決策だと考えます。

2012/12/01 11:50

信託の利用例